AAV

概要

遺伝子治療では、治療用遺伝子を組織や細胞に運ぶために、人工的に病原性等を除いたウイルスベクターが重要な役割を果たします。なかでもアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、病原性を示さないことから比較的安全性が高く、様々な組織指向性をもち、近年では製薬企業や創薬ベンチャー企業により、遺伝子治療用ベクターとして活発に研究開発に使用されています。AAVベクターを用いた遺伝子治療薬としては、2012年にリポ蛋白リパーゼ欠損症の治療薬として欧州で承認されて以降、近年では、脊髄性筋萎縮症、遺伝性網膜ジストロフィーの治療薬が上市されています。AAVベクターを用いた遺伝子治療では、治療用遺伝子が目的の組織や細胞に運ばれることが、遺伝子治療薬の効果や患者の安全性の観点から重要です。当社では、大学や公的な研究機関との共同研究等を通じて、特定の組織への指向性が高い遺伝子治療用AAVベクターの開発を進めています。これまでの研究成果として、脳や内耳組織に高い指向性をもつAAVベクターを開発しました。これらのAAVベクターを用いた遺伝子治療の実用化に向けて開発を進めると同時に、AAVベクターのCDMO受託を開始し、遺伝子治療を社会実装につなげる取り組みを支援しています。

作用機序

  1. 治療用遺伝子を搭載したAAVベクターを投与すると、細胞表面から細胞内に取り込まれます。
  2. AAVベクターに搭載された遺伝子は宿主細胞の核に移行し、宿主細胞の遺伝子発現機構を利用して転写・翻訳されて、治療用遺伝子のタンパク質が発現します。
  3. 発現したタンパク質が、疾患の原因である遺伝子の欠損や異常を補填することで、病気の進行遅延や症状の改善が期待されます。
     

CereAAV™

一般に、脳を標的とした遺伝子治療では、AAVベクターを静脈注射により全身投与すると脳以外の臓器(肝臓等)にも蓄積する傾向があり、高用量投与時に副作用の原因となる可能性が指摘されています。このため、脳疾患を対象とした遺伝子治療には、脳指向性の高いAAVベクターが求められています。
当社は、AAVの一種であるAAV2をベースに遺伝子工学的改変と独自スクリーニング技術により、脳指向性が非常に高い新規遺伝子治療用AAVベクター「CereAAVTM」を開発することに成功しました。静脈注射による動物試験(マウス)において、CereAAVTM は既存の遺伝子治療薬で使用されているAAV9と比較して、脳への遺伝子導入効率が高いことが分かりました。よりヒトに近い霊長類であるカニクイザルでの試験では、AAV2及びAAV9と比較して、CereAAVTM は脳の各領域において高い遺伝子導入効率を示すことを確認しました。
また、東京都医学総合研究所との共同研究では、CereAAVTM をマウス硝子体に投与すると、AAV2と比較して網膜内の細胞に効率よく遺伝子導入できることも確認しています。現在、眼疾患を対象に承認されているAAVベクターを用いた遺伝子治療薬は網膜下投与が必要で、手術による侵襲性が高いという課題があり、硝子体投与により、簡便かつ効率よく網膜に遺伝子導入ができるAAVベクターが求められています。当社では、CereAAVTMを使用して、脳疾患や眼疾患を対象とした遺伝子治療の実用化に向けて開発を進めています。

 

当社は、AAVベクターを含む各種ウイルスベクターの製造受託サービスを提供しています。
CereAAVTMについては、改変体を含むCereAAVTMシリーズのCDMO受託サービスも行っています。詳細は以下のリンクをご参照ください。

 

【アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターのCDMO受託の詳細】
https://catalog.takara-bio.co.jp/jutaku/basic_info.php?unitid=U100007814

SonuAAV™

近年、耳科領域においても、遺伝性難聴等を対象としたAAVベクターを用いた遺伝子治療法の開発が進められていますが、既存のAAVベクターによる内耳器官への遺伝子導入効率は、治療効果を発揮するには充分ではないという課題があります。
当社は、順天堂大学との共同研究により、マウス内耳器官に効率よく遺伝子導入が可能な新規遺伝子治療用AAVベクター「SonuAAVTM」を開発しました。SonuAAVTM をマウスの内耳へ投与すると、難聴に対する遺伝子治療の標的となる内耳細胞への高い遺伝子導入効率が認められました。遺伝性難聴の原因遺伝子であるGJB2 遺伝子を欠損させた難聴モデルマウスへ、GJB2 遺伝子搭載SonuAAVTM を投与すると、投与後6週間でマウスの聴力回復することも確認していています。当社は、SonuAAVTMを使用した遺伝性難聴等への遺伝子治療についても開発を進めています。

学会発表

学会

演題

BioJapan 2024

2024年10月9日~11日

横浜

遺伝性難聴へのアデノ随伴ウィルスを用いた遺伝子治療の開発

第30回日本遺伝子細胞治療学会学術集会

2024年7月16日~18日

横浜

アミノ酸置換によるCereAAVのマウス脳への遺伝子導入効率の向上

遺伝性難聴疾患モデル Gjb2遺伝子欠損マウスに聴覚改善効果を示す新規AAV2キャプシド変異体SonuAAVベクターの開発

第27回米国遺伝子細胞治療学会学術集会

2024年5月7日~11日

米国・ボルチモア

A Novel AAV2 Mutant SonuAAVTM Expressing mGjb2 Can Improve Hearing in Adult Gjb2-Deficient Mice by Cochlear Perilymph Administration

Characterization of Brain Targeting CereAAVTM Gene Transduction in Cynomolgus Macaque and Further Improvement of Gene Delivery Capability by Amino Acid Substitutions

(Click here for presented data)

第14回群馬大学未来先端研究機構

国際シンポジウム

2024年2月14日

群馬大学

Characterization of Brain Targeting CereAAVTM Gene Transduction and Further Improvement of Gene delivery capability by Amino Acid Substitutions.

BioJapan 2023

2023年10月11日~13日

横浜

組織指向性(網膜、内耳)を持つアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター遺伝子治療開発の最前線

第29回日本遺伝子細胞治療学会学術集会

2023年9月11日~13日

大阪

脳指向性CereAAVTMの脳指向性メカニズムの解析