タカラバイオ株式会社は、TCR遺伝子治療技術を用いた癌治療薬の商業化を目指し、三重大学・珠玖洋教授らのグループと共同で開発を進めていますが、本日、同グループがTCR遺伝子治療(NY-ESO-1・TCR遺伝子治療)の第Ⅰ相臨床試験(医師主導治験)を実施するため、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に再生医療等製品としての治験計画届を提出しましたのでお知らせします。

 

NY-ESO-1・TCR遺伝子治療は、癌抗原であるNY-ESO-1抗原をターゲットにした治療です。当社は、治験製品であるNY-ESO-1抗原特異的TCR遺伝子導入Tリンパ球を製造し、提供する予定です。また、本治験製品の製造において、当社が開発したレトロネクチン法および三重大学と共同開発したTCR遺伝子導入用レトロウイルスベクターが使用されます。

 

三重大学などでは、平成26年よりMAGE-A4抗原陽性の固形癌を対象としたTCR遺伝子治療(MAGE-A4・TCR遺伝子治療)の第Ⅰ相臨床試験(医師主導治験)を行っています。今般、MAGE-A4・TCR遺伝子治療とは対象となる患者が異なるNY-ESO-1・TCR遺伝子治療の治験を開始することにより、TCR遺伝子治療の対象範囲が拡大します。

 

当社は、昨年施行された医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(改正薬事法)において再生医療等製品に適用される制度(条件及び期限付承認制度)などを活用し、TCR遺伝子治療の平成33年度の商業化を目標としています。なお、本件による当社連結及び単体の平成27年3月期業績への直接的な影響は軽微です。

 

【本試験の概要】(予定)

 

治験課題名 化学療法剤投与による前処置後のNY-ESO-1抗原特異的TCR遺伝子導入Tリンパ球輸注による固形癌を対象とした多施設共同臨床第Ⅰ相医師主導治験
対象患者 再発難治性の固形癌患者のうち、HLA-A*02:01又はHLA-A*02:06陽性かつ腫瘍細胞にNY-ESO-1抗原を発現している患者
主要評価項目 TCR遺伝子導入Tリンパ球の安全性、血中動態
副次評価項目 臨床効果(腫瘍縮小効果)
予定症例数 12例
予定試験期間 平成27年4月~平成29年3月
実施施設 国立大学法人三重大学等

 

当社は、本TCR遺伝子治療の臨床開発にあたっては、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の実施する研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)実用化挑戦タイプ(創薬開発)の支援を受けています。

この件に関するお問い合わせ先 : タカラバイオ株式会社 広報・IR部
Tel 077-565-6970

<参考資料>

 

【語句説明】

 

TCR遺伝子治療

癌患者から採取したリンパ球に、癌細胞を特異的に認識するTCR遺伝子を体外で導入し、培養によって増殖させた後に輸注により患者に戻す治療で、癌免疫遺伝子治療の一種です。TCR遺伝子が導入されたリンパ球が、患者の体内において、癌細胞を特異的に認識して攻撃し、消滅させることにより癌を治療します。ターゲットとする癌抗原に合わせたTCR遺伝子を選択することにより、TCR遺伝子治療は様々な癌種への適用が可能となります。

 

NY-ESO-1・TCR遺伝子治療

NY-ESO-1抗原陽性の固形癌を対象としたTCR遺伝子治療です。NY-ESO-1抗原は、癌抗原の一つで、滑膜肉腫、悪性黒色腫、食道癌、卵巣癌、多発性骨髄腫、頭頸部癌などで発現が確認されています。

 

TCR(T細胞受容体)

リンパ球(T細胞)に発現する糖タンパク質で、リンパ球が抗原を認識する際に作用します。腫瘍抗原を含む抗原をTCRが認識することにより、リンパ球が活性化されます。

 

癌抗原

免疫細胞が癌細胞と正常細胞を見分けるための目印になるもので、細胞の表面に提示される抗原のうち、癌細胞に特有な抗原を癌抗原といいます。

 

医師主導治験

医師自らが治験計画届を作成提出して治験の準備や管理を行う治験で、平成15年の薬事法改正により可能となりました。遺伝子治療のような先端医療では、専門性の高い医師との密接な連携による開発が必須であり、治験・開発に積極的な医師の主体的参加による医師主導治験は円滑に開発が進むと考えています。

 

MAGE-A4・TCR遺伝子治療

MAGE-A4抗原陽性の固形癌を対象としたTCR遺伝子治療です。MAGE-A4抗原は、癌抗原の一つで、食道癌、頭頸部癌、卵巣癌、悪性黒色腫などで発現が確認されています。