当社は、第40回欧州臨床腫瘍学会(European Society for Medical Oncology)の年次総会において、腫瘍溶解性ウイルスHF10の米国での第Ⅰ相臨床試験の結果を発表しますので、お知らせいたします。

 

学会名 第40回欧州臨床腫瘍学会
場所 ウィーン(オーストリア)
発表日時 9月27日 16:45~18:45(現地時間)
プログラム Poster Session : Melanoma and Skin Cancer
演題 Delayed Tumor Response and Safety Profile in Patients with Refractory Superficial Cancers Treated with Intratumoral Injections of HF10, an oncolytic HSV-1
(表在性病変を有する難治性がん患者への腫瘍溶解性ウイルスHF10の投与による遅発性腫瘍縮小効果および安全性評価結果)
発表要旨 【安全性について】
  • 重篤な有害事象は見られなかった。
  • 因果関係を否定できない有害事象は、評価可能な24例のうち9例あったが、いずれも副作用のグレードが2以下であった。
  • HF10投与前の抗HSV-1抗体の有無は副作用に影響しなかった。

 

【有効性について】

  • 評価期間(初回投与から10週間)においては、評価可能な24例のうち、7例がlocal SD(投与部位で安定)、8例がoverall SD(非投与部位も含めて安定)であった。メラノーマの患者においては、評価可能な9例のうち6例がoverall SDでメラノーマに顕著な効果を示した。そのうちメラノーマの1例ではHF10投与部位の腫瘍が45%縮小した。完全奏効や部分奏効の症例はなかった。
  • 評価期間後の経過観察において、メラノーマの3例でHF10投与後、他の治療をすることなく遅発性の腫瘍縮小効果が見られ、うち2例ではHF10投与部位の腫瘍が完全に消失した。

 
当社は、腫瘍溶解性ウイルスHF10について、現在、米国においてメラノーマを対象とした第Ⅱ相臨床試験を、日本においてメラノーマや扁平上皮がんなどの固形がんを対象とした第Ⅰ相臨床試験を行っています。平成30年度の商業化を目標に、引き続き臨床開発を推進してまいります。

この件に関するお問い合わせ先 : タカラバイオ株式会社 広報・IR部
Tel 077-565-6970

<参考資料>

 

【語句説明】

 

腫瘍溶解性ウイルスHF10

HF10は単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の弱毒化株で、がん局所に注入することによって顕著な抗腫瘍作用を示します。このようなウイルスは腫瘍溶解性ウイルス(oncolytic virus)と呼ばれています。当社はメラノーマを対象に米国で第Ⅱ相臨床試験を、メラノーマなど固形がんを対象に日本で第Ⅰ相臨床試験を行っています。
 

単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)

単純ヘルペスウイルス1型は、唇にできる口唇ヘルペス(口内炎)や、眼の角膜にできるびらん(単純ヘルペス角膜炎)などの原因となります。感染しても、多くの場合は症状をあらわすことなく体内に潜んでいますが、ストレス・過労・病気などの要因で体力が低下すると症状をあらわします。アシクロビルをはじめとした抗ウイルス剤が有効です。
 

腫瘍溶解性ウイルス

腫瘍溶解性ウイルスとは、正常な細胞内ではほとんど増殖せず、がん細胞内において特異的に増殖するウイルス(制限増殖型ウイルス)です。増殖によって直接的にがん細胞を破壊し、さらにその際に放出されたウイルスが周囲のがん細胞に感染すること、また、破壊されたがん細胞の断片ががんに対する宿主の免疫を活性化することで、投与部位以外のがんも縮小することが期待されます。単純ヘルペスウイルス1型のほか、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、レオウイルス等から作られた腫瘍溶解性ウイルスの開発が行われています。
 

メラノーマ

悪性度が非常に高い、皮膚に発生するがんの一種で、悪性黒色腫とも呼ばれています。皮膚の色と関係するメラニン色素を産生する皮膚の細胞をメラノサイトと呼び、悪性黒色腫はこのメラノサイトあるいは母斑細胞(ほくろの細胞)が悪性化した腫瘍と考えられています。
 

副作用のグレード

副作用の重症度を示すものです。米国がん国立研究所が公表した基準では、グレード1~5の5段階に分類されています。グレード1~5の順に、軽度、中等度、高度、生命を脅かす重症度、死亡となります。グレード2以下は、症状に対して治療が必要になる可能性があるが、臨床試験は継続できる程度とされています。
 

完全奏効、部分奏効、安定

抗がん剤の治療により、がんの大きさがどの程度小さくなったかを表す基準で、最も一般的なRECIST(Response Evaluation Criteria in Solid Tumor)のガイドラインで以下のように定義されています。

  • 完全奏効:がんが消失し、それが4週間続いた状態。
  • 部分奏効:がんの大きさが30%以上縮小し、それが4週間続いた状態。
  • 進  行:がんの大きさが20%以上増加した状態。
  • 安  定:部分奏功と進行の間の状態。

 

抗HSV-1抗体

単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に結合する抗体のことを抗HSV-1抗体と言います。一般的に、血液中に抗HSV-1抗体をもつ人は、HSV-1の感染に対して免疫があるため、HSV-1の感染に伴う症状も穏やかと考えられます。